社員インタビュー
2025.07.11
fmtが誇る照明技師が語る日本アカデミー賞


Profile
プロフィール
照明技術部
加瀬 弘行
数多くのTVドラマを担当し、代表作のドラマ「踊る大捜査線」の映画化を機に、「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」から照明技師として映画撮影に活動の場を移す。同作で日本アカデミー賞優秀照明賞を初受賞し、その後も担当映画作品で受賞を重ねるなど、fmtが誇る照明技師の第一人者。第48回日本アカデミー賞では、「キングダム 大将軍の帰還」で最優秀照明賞を受賞した。

授賞式での受賞コメント
日本アカデミー賞授賞式に参加して
俳優さんたちが綺麗にドレスアップしているだけでなく、会場にいる一般のお客さんもドレスアップしていて、とても華やかな空間でしたね。参加していた役者さんもスタッフの方も基本タキシードスタイルが多くて、「必要であれば貸衣装もありますよ」というお知らせもくるのですが、私は自前のもので参加しました。昨年の授賞式では、美術さんで袴を着て参加している方もいらっしゃったのですが、私は普通のスーツでいかせて頂きました(笑)
ノミネートされたことを知らされてから、授賞式までは少し期間が開いていたのですが、その間キングダムチームのメンバーとは会うこともなく、授賞式で皆で会うのは久しぶりといった感じでした。最優秀賞は、授賞式当日までもちろんわからないのですが、会場に入ったら舞台袖にトロフィーが並べられていて、「あれじゃ最優秀賞が誰かわかってしまうのでは!?」とドキドキしていました。実際に発表され、受け取ったトロフィーも見てみると、名前は刻印されていない状態だったので、流石に対策されていましたね(笑)
一昨年と去年も同じく優秀照明賞にノミネートされ、授賞式会場にいたのですが、どちらの年もそれぞれ「ゴジラ-1.0」と「シン・ウルトラマン」という撮影賞・照明賞共に巨匠と呼ばれている方々が最優秀賞を受賞していたんです。今年は受賞者の年齢層が比較的若く、私が一番年上なんじゃないかというくらいの感じだったので、「ひょっとしたら…?」なんて思った途端に緊張してしまった、なんてこともありました。

日本アカデミー賞とは
ハリウッドやイギリスにおけるアカデミー賞は「撮影監督賞」という名前の賞があって、「照明賞」という賞はないんです。撮影監督というのは、映像に関する全体的なプランを組む役割を担っている一方で、「ガッファー」と呼ばれる照明専門技師と協力しながら照明の仕事も行っています。「撮影監督」という名前ですが、彼らがカメラを触ることはほとんどなく、カメラオペレーターと呼ばれる人が別にいて、その人が撮影を行います。
撮影・照明と役割が分かれているのは日本だけなんです。そういったこともあって、撮影賞と照明賞は基本的には同一作品から選ばれます。
アカデミー賞受賞の流れとしては、一番初めは制作プロダクションを通じて「ノミネートされましたよ」という旨のメールが来て、その後正式な通知は、書面が郵送されてきました。その郵送されてきた書類を見て初めて、他のどの作品がノミネートされているかわかるといった形になります。今年に関しては、私とラストマイルの担当の方とで、テレビ業界の人が2人入ってるということもあり、ひょっとしたらあまりないことだったのかもしれませんね。
「キングダム 大将軍の帰還」という作品においては、作品賞や監督賞などは最優秀を惜しくも逃してしまったのですが、技術3部門もそうですし、全体として多くの賞をいただくことができて、この作品に携わっていただいた皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。

作品について 「キングダム 大将軍の帰還」
キングダムシリーズの見所はやっぱり、派手なアクションシーンです。その全てのアクションシーンをロケーションで撮影を行うのは大変なので、1シーンの中でもスタジオでやるシーン、ロケでやるシーンにブロックごとに分かれていました。その中でもナイトシーンでの炎の表現に苦労しました。キングダムで描かれている時代の夜の光といったら、月光か炎しかありません。その炎を表現するにあたり、本当の炎を光量として使ってしまうと、画角内に映る「炎」の輝度調整ができず明るすぎて白飛びしたり、高感度カメラが使えなかったりしました。そういった状況の中で、本当の炎と嘘の光を合わせて、そのバランスの取り方がとても難しかったですね。
炎の表現の話でいうと、その他にもスタジオでの撮影だと、本物の松明はセットに近いと火災の危険性もあって使えない、といった問題もありましたね。そのために、LEDで松明を作って役者さんに持ってもらいました。松明自体は後からCGで炎に書き換えられますが、その炎の光を受けた顔が自然に映るよう、炎の光や色をうまく調整する必要がありました。
映画の中に出てくる、「龐煖と王騎の戦い」のシーンでは、スタジオでの撮影パートも多く、そのほとんどがグリーンバックでの撮影でした。そのため、役者は実際に景色が見えているわけではないので、ここにどれだけの人がいて、何万人対何万人という軍勢同志の戦いということを想像しながら、そして感じながら芝居をしなければなりません。その環境の中での芝居は、役者にとっては大変だったのでは?と思います。
キングダムは中国を舞台にした物語です。しかし、撮影期間がコロナ禍真っ只中ということもあり、何度も中国ロケハンをして、撮影予定を立てていたにもかかわらず、情勢的に中国での撮影が行えない、ということになってしまいました。それでも「どうにかして中国の映像を使いたい」という監督の熱い思いのもと、zoomで中国と繋いで、中国人スタッフと中国人キャストに撮影してもらい、CGや吹き替え作業を行うことで本物の中国の映像を使用することができました。これは監督の強いこだわりが作品に表れてたような気がします。
このキングダムシリーズを通して、私が一番こだわったところが、「デイシーンも必ずライティングする」ということです。最初に佐藤信介監督にあった時に、「デイシーンでもコントラストをつけて欲しい」という要望をいただきました。それに応えるためにも、デイシーンでもライティングを行うことで、シーンの力強さや表現を豊かにし、「熱血感のある表情を魅せる」ということを実現しました。
